絵の具|「油絵の具」とは?

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油絵はその名の通り、「油絵の具」で描かれた絵画のこと。西洋絵画史の発展に欠かせなかった絵の具の一つです。

油絵の具で描くからこその深みのある色や奥行きは、見ていてとても憧れるものがあります。

今回は、油絵の具とはどんな絵の具なのか、そして油絵を描く時に必要な調合溶き油の基本的な使い方について解説してみました。


絵の具の原料は、色を帯びた粉である「顔料」と、その顔料を画面にくっつける「バインダー(=糊、接着剤、展色剤)」でできています。このほか、保湿剤や防腐剤などが絵の具に含まれます。

【絵の具】=[顔料]+[バインダー]
絵の具|「顔料」とは?

このバインダーに何が使われているかで、絵の具の名称が決まるのです。

【水彩絵の具】
 =[顔料]+[アラビアガム(アカシア樹脂)]
絵の具|「水彩絵の具」とは?「アクリル絵の具」との違い

【アクリル/アクリルガッシュ】
 =[顔料]+[アクリル樹脂]
「アクリル絵の具」誕生の歴史

【日本画/岩絵の具/水干絵の具】
 =[顔料]+[膠|にかわ]

そして、油絵の具は「乾性油」などがバインダーとして使われています。

乾性油とは、空気に触れることで化学反応(酸化)を起こし、固化する油のことです。

油なら何でもいいのかというとそうでもなくて、例えば台所にあるオリーブオイルや菜種油などは、空気に触れても固化しないので使えません。

油の種類

【乾性油】
空気中で完全に固化する植物性の油。
亜麻仁油・芥子油・桐油・紫蘇油・胡桃油・荏油・紅花油・向日葵油など。
特に、亜麻仁油(リンシードオイル)、芥子油(ポピーオイル)は油絵の具に用いられる代表的な乾性油。

【半乾性油】
空気中に反応するが、完全に固化しない油。
コーン油・綿実油・胡麻油・大豆油など。

【不乾性油】
空気に触れても永遠に固化しない油。バインダーには使えない。
オリーブ油・扁桃油・落花生油・椰子油・椿油・菜種油など。

油絵の具だけでも一応描くことはできますが、確実にひび割れ・亀裂が起きます。顔料を画面にしっかり接着させるためにも、乾性油の存在は欠かせません。


なぜ油絵の具で描くと色が濃く見えるのか

油絵の具の透明性は、[水性の絵の具]が透明・不透明に見える構造とはちょっと違います。

もちろん、油絵の具にも[不透明の絵の具]はありますが、油絵の具の性質上、基本的には[透明の絵の具]だと説明されることが多いです。

絵の具|「透明」「不透明」とは?

さらに、油絵と油絵の具以外の絵の具で描かれた絵を比べると、油絵の具の方が色が濃く見えます。特に、日本画と油絵を見比べてみると、日本画の方がなんだか白っぽく、壁画のようにも見えてきます。

実は、使われている顔料が同じでも、バインダーが違うと色の見え方が変わってくるのです。

なぜ、バインダーが違うと色の見え方が変わるのかというと、その理由は光の屈折率にあります。

例えば、晴れの日と雨の日のアスファルトを想像してみてください。

雨が降って濡れたアスファルトは、晴れの日より濃い(暗い)色に見えるのではないでしょうか。しかし、これはアスファルトを覆っている雨水によって屈折率が変わっただけで、アスファルトの色自体が変わったわけではないのです。

この現象と同じようなことが、油絵の具や他の絵の具でも起きています。

水彩絵の具を水で溶いて描いた後は、水が蒸発して顔料の粒が剥き出しになり、デコボコした表面に。この「デコボコ」が光を乱反射させるので、私たちの目には白っぽく見えます。

一方、油絵で使う乾性油は、固化した後も顔料が油の中に分散した状態になっています。つまり、ツルツルの画面になっているので、乱反射も起きにくいです。また、透明な層が重なると光の経路がより複雑になり、画面に深みが出ます。


油絵の具と必要な画用液

さて、次は油絵の具と一緒に使う基本的な画用液を紹介します。

画用液とはバインダーのことですが、ツヤを出すものだったり画面を保護するものだったりと、効果が違ってきます。このように、油絵は複数の画用液を使い分けながら描いていくのです。

【乾性油】
 └[リンシードオイル]
 └[ポピーオイル] など

トロリとしている。油絵の具に最適な粘りと、画面に光沢・透明感・重厚感を与える。油絵の具は、他の絵の具と比べると乾くのがはるかに遅い。表面は約5日から2週間で乾燥するが、完全に乾燥するには数ヶ月から数年かかる。

【揮発性油】
 └[テレピン(=松ヤニから採られる)]
 └[ペトロール(=石油から生成される)] など

サラサラしている。主に油絵の具や他の画用液の「うすめ液」として使われる。

【ワニス(樹脂系オイル)】
 └[描画用ワニス(パンドル)]
 └[加筆用ワニス(ルツーセ)]
 └[画面保護用ワニス(タブロー)] など

仕上げの段階で使う画用液。画面の保護膜を作ったり、画面の光沢を調整したりする。接着力が高く、乾燥も早い。ほっとくとワニスの入ったビンの蓋が開かなくなる(経験済み)

【クリーナー】
筆を洗ったりパレットを掃除する時に使うオイル。毎回きちんと洗わないと、筆がカチコチになっちゃう(経験済み)

これらの画用液の使い方ですが、基本的には

最初は揮発性油(テレピンやペトロール)で描画
  ↓
徐々に揮発性油に乾性油を加える
  ↓
乾性油の配合を増やしていく
  ↓
ワニスで画面を仕上げる

という流れで描いていきます。

どのタイミングでどのくらいのオイルの配合で描けばいいのか…。これは言っちゃアレですけど、けっこう経験や勘に頼っています。

これも言っちゃアレですが、実は私はあまり意識して描いていません。絵の具の重なり具合や時間経過の具合をみて、直感的に「これくらいかな?」とオイルの配合を変えているのです。(制作手順の詳細はまた別の記事で紹介しますね)

じゃア初心者はどうすればいいのかというと、最初は「ペインティングオイル(※商品名)」を使って描くのがオススメです。

出典:SEKAIDO ONLINE SHOP|世界堂 画用液 ペインティングオイル

ペインティングオイルとは、乾性油・揮発精油・ワニス・乾燥促進剤などをあらかじめ調合した画用液。このオイルがあれば、描き始めから仕上げまでそのまま利用できる、超便利なオイルです。

使い方は同じように、最初は揮発性油で描き、徐々にペインティングオイルの比率を増やしていきます。シンプルなモノです。


まとめ

・油絵の具=「顔料」+「乾性油」など
・基本的な画用液は「揮発性油」と「乾性油(またはペインティングオイル)」
・書き出しは揮発性油のみ。徐々にペインティングオイルを増やしていく