表題の通り、夢を見た。久々に。
私はあんまり夢を見ない方だ。だからこそなのか、鮮明に記憶に残っているので、ちょっと記録してみたくなった。ただ、そのまま夢日記のように語っても面白くないので、小説風にしてみることにした。
◇◇◇
「誰も私が頑張ったことなんか知らんとよ」
祖母の葬式の席で、母が呟いた言葉が忘れられない。
Hは祖母の容態が悪くなってきた半年前から、ちょくちょく帰省するようになっていた。そして先日、彼女は長い眠りについた。祖父が亡くなってから10年以上は生きたのだから、大往生だったと思う。
Hの祖母は、母の本当の母親ではない。継母だ。だから、必然的にHとも血が繋がっていないことになる。それでも、祖母にはよくしてもらった。完璧主義で厳しい人だったが、その裏には優しさがあった、とHは思っている。そんな彼女を一言で表現するなら、「真っ直ぐな人」だった。その祖母が、死んだ。
「この度はご愁傷様」「大きくなったね」と声をかけてもらったが、見知らぬ親戚や祖母の友人がほとんどだった。Hは小さく作り笑いをしながら、淡々と対応していく。
挨拶も少し落ち着いてきたので休憩しようと、従姉妹にその場を任せてHは座敷へと向かった。座敷へ向かう途中、冷蔵庫からビールを取り出して持っていった。仏壇の横をチラリと見やると、棺桶に入った祖母が横たわっているのが目に入る。Hはあらためて、青いぼんぼりの光が揺らめいている座敷を、ぼんやりと眺めていた。すると、妙なモノに気づいた。
「…漬物石…?」
漬物石が棺桶の横に置いてあるのだ。なんでまた、と思いながらビールをちょっと飲む。
「あ」
飲んだあと、何かを思い出したような声がでた。
あれは漬物石じゃない。家の庭の片隅に祀ってあった「石」だ。
生前、祖母は毎日のように、あの石に柄杓ですくった水を一杯かけて濡らしていた。
祖母から聞いた話、あの石は龍神の鱗を模しているのだという。ここら辺一帯は、昔から水害が多い地域であった。そのわけは、龍神の鱗が乾くからで、乾きに耐えられなくなった龍神が雨を降らせようと暴れ、水害を起こしてしまうのだ、という云い伝えがある。
「だけん、こがんやって毎日ね、竜神様の鱗ば濡らしてやいよっとよ」
「ふーん」
「ばあちゃんがおらんごとなっぎ、Hがこいばやってくれんね」
「うん、わかった。うち、毎日やるね」
子供の時の話だ。数十年後、Hは就職とともにこの町を出た。
「あ、母さん」
母親が台所から戻ってきた。
「あの石、なしあそけあーと?」
「あぁ、お母さん…ばあちゃんが喜びんしゃっかにゃーて」
これ、どう喜ぶのだろうかと、ちょっとズレた母の感覚にHは未だに慣れない。
「そいぎ、母さんがあそけ置いたとね」
「うん。ばってんね…」
「…なん?」
「だい(誰)もそんことに触れてきんしゃらんやろ。置いてあーとが、さも当たり前のごとしとんしゃーと」
「…たぶん、あいが何やっとか、分かんしゃらんとやなか?」
Hは、フォローするつもりで言った。
「そがんやろうかね?でも、ふふふ、Hはすぐ分かってくいたね」
Hは優しかね、と母は少し酔っているのか、へらへらと笑いながら言った。だが、すぐに無表情になり、ポツリとこうつぶやいた。
「誰も私が頑張ったことなんか知らんとよ」
終わり。
◇◇◇
なんだか夢なのに妙にリアルで、起きた時、自分が今どこにいるのか一瞬分からなくなった。で、起承転結の「結」が無いのだが、それを見る前に起きてしまった。
もし、「結」へ繋げるとしたら、どうストーリーを紡げばいいだろうか。
自己解析だが、こんな夢を見た理由として、おそらく家族間の関係が、ここ数年気がかりだったからかもしれない。というか、これはもはや、ずっと昔から続く、人類の悩みのような気がする。
幼少期は気づきもしなかったが、家族間で色んな感情・考えのダイナミズムがあることに、自分も年を重ねていく毎にはなんとなく気づいていくもんで。家族といえども…である。