大学3年の夏の話。
青森県から日本海側を南下していって、ついでに故郷佐賀に帰省する、という旅の計画を実行していました。
鳥取駅に到着したあと、私はその日に泊まる宿まで歩いて行きました。宿があるのは駅から2キロちょっと。宿の目の前が漁港になっている宿でした。
宿の中に入ると、タバコを燻らせながら談笑する2人の30代くらいの女性がいました。一人は宿のオーナー、そしてもう一人はオーナーさんの近所に住むという友達でした。
宿のオーナーは、刈り込んだヘアスタイルがとても似合っている「かっこいい」感じのお姉さんだ。
「今日ね〜、お客さんあなた一人なんだよ〜」
「えっ、そうなんですか」
だから特別に好きな部屋を選んでいいよ、と言われた私は、海が見える窓辺の部屋を選びました。海から運ばれてくる風がとても心地のいい部屋です。
お風呂に入ったあと、お姉さんは「ブドウあるから一緒にどう?」とすすめてくれました。せっかくだからとブドウを食べながら話をしていると、お姉さんも旅好きだということが分かり、今まで行った国の話をたくさんしてくれました。
彼女が世界を旅していた時、すごくよくしてくれた宿のお婆さんがいて、その人やそのような居場所を自分でも作りたい、と思ってこの宿を始めたそうだ。
「なに!海外行ったことないの?じゃあ来月のタイ行きのチケットとりな。そしたらもう行くだけだよ!いいな〜、私も行きたい〜」
「ええええ、私、行くことになってるんですか(笑)」
ちなみに、タイには行かなかった(金欠)。
彼女はちょっとファンキーな見た目とは裏腹に、のんびりしゃべる人だ。元来、人見知りの私もそれに気が緩んだのか、
「明日、鳥取砂丘へ日の出を見に行こうと思っているんですけど、一緒に行きません?」
なんて提案していました。
えー、もう何回も行っているし〜。てかあそこまで歩いていくの〜?と、お姉さんは最初、乗り気じゃなかったのですが
「ん〜、わかった!行こうか!明日4時起きね!車出してあげる」
「やったー!」
最終的には私のプランに付き合ってくれました。優しい。
午前4時。
まだ青白さの残る闇の中、私たちは砂丘の「馬の背」と呼ばれる場所に向かって歩いていました。靴は砂丘の入り口に置いて来たから、二人とも裸足。昼間だったら、裸足で歩くなんてこと絶対できません。砂がめちゃめちゃ熱くなるからだ。
登り切ると、その先に海が見えました。
上を見ると、星がまだ瞬いています。
「あ、宿が見える」
「あらー、あんなに小さく…」
「こりゃ歩くの無理だったね(笑)」
「あそこにさ、クジラみたいな形した島があるでしょ」
「ほんとだ!!」
「ね。小学生の時、カワイイ〜って思ってたんだ〜」
なんて、たわいも無い話をしているうちに朝日が昇ってきました。
日の出を見終わったあと、帰りに二人でコンビニに寄って朝ごはんを買い、車の中で食事をしました。
「なんか、久しぶりに旅した気分〜」
と、お姉さんがすっきりした声で言った。
「え、近所なのにですか?」
「宿を始めてからさ、あんまり遠出できなくなっちゃったから忘れてたんだけど、「こことは違う場所」に行く楽しさを思い出しちゃった。それがたとえ、近所の鳥取砂丘であってもね〜(笑)」
また旅に出るかも〜、と言うお姉さん。
次に私がこの宿に泊まろうとした時、彼女は旅に出ていて留守かもしれないですね。