絵の具|「染料」とは?

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色の原料になるものは、主に2種類あります。

【色の原料】
 └ 染料
 └ 顔料

顔料と染料は、どちらも色を帯びた粉末。
これらの違いは、水に溶けるか溶けないか、にあります。

不溶(=水に溶けない)なのは顔料で、可溶(=水に溶ける)なのは染料です。顔料より染料の方が分子レベルで圧倒的に細かいため、水に溶けることができます。

どちらも色の原料にはなるのですが、特に絵の具の「色材」として使われるのは顔料です。よく、「絵の具を溶かす」なんていいますが、厳密には顔料の粒を水で分散しているだけで、溶かしているワケではありません。

絵の具|「顔料」とは?

対して、染料は水や油などの液体に溶けることができ、布や紙などの繊維の間に染み込むことで色を染めます。また、染色後に発色した色は、不溶性になるのが特徴です。


染料の種類

染料はいくつかに分類することができます。

【染料】
 └ 天然染料(自然染料)
  - 植物性
  - 動物性
  - 鉱物性
 └ 化学染料(合成染料)

天然染料

「天然染料(自然染料)」は、草花などの動植物から抽出した染料です。天然染料、特に「アカネ」「アイ」「ベニバナ」など植物由来の染料は、古くから世界各地で使用されていました。

しかし、天然染料は材料に限りがあるにもかかわらず、わずかな量しか得られないため、高価な希少品でした。また、染色の手順が複雑だったり、同じ色を作り出すのが難しかったりと、扱いが難しい面もあります。


【植物性の天然染料】
日本だと、徳島の「藍玉」や山形の「最上紅花」などが有名です。
これらは時に金と同等かそれ以上の価値で取引されました。

ジブリ『おもひでぽろぽろ』ベニバナ|黄色い花から赤い染料ができるまで


動物性の天然染料
動物からとれる天然染料には「貝紫」や「エンジムシ」などがあります。どちらも古くから世界中で用いられてきた染料です。

「貝紫」は巻貝にある「パープル線」と呼ばれる赤紫色の筋から染料が抽出され、「エンジムシ」からはコチニールと呼ばれる赤色の染料がとれます。こちらも、量にしてはわずかな染料しかとれないので、高価なものとして取引されていました。

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【鉱物性の天然染料】
黄土や赤土、弁柄などは「鉱物染料」とされることが多いようですが、これらは水などに溶けません。このように顔料と染料の線引きは意外と曖昧ですが、「水に溶けない」ということであれば、どちらかと言うと顔料なのかなと思います。

鉱物染料として世界的にも有名なのは、奄美大島特産の「大島紬(おおしまつむぎ)」を染めるのに使われる「泥」です。泥に含まれる鉄分と植物の成分が化学反応を繰り返すことで、色落ちしにくい丈夫な布になります。


化学染料(合成染料)

「化学染料(合成染料)」の多くは、主に19世紀から20世紀にかけて開発されました。

世界初の「合成染料」は1856年に誕生します。これは、イギリスの化学者ウィリアム・パーキン(Sir William Henry Perkin, 1838-1907)によって開発され、この染料は「モーヴ(モーベイン、アニリンパープルとも)」と名付けられました。

日本では、開国後の明治時代から盛んに用いられるようになりました。合成染料は、色の調節が比較的簡単なものが多く、また同じ色を再現しやすいので、大量生産が可能です。


[染料系の絵の具]はあるのか

絵の具の原料は、顔料とその顔料をくっつける「バインダー(糊、接着剤、展色剤)」です。そのほか、「保湿剤」や「防腐剤」などが入っています。

【絵の具】=[顔料]+[バインダー]

あめたん

もし顔料の代わりに
染料を使ったとしたら…

染料は布や紙などの繊維の間に染み込むことで色を染めるので、筆が色で染まってしまったり、また水や油に溶けるので、[染料系の絵の具]の上に[顔料系の絵の具]を重ね塗りすると、先(下)に塗った[染料系の絵の具]が染み出したりします(=ブリード現象)。

しかし、[染料系の絵の具]と呼ばれるものは存在しています。「プルシャンブルー」や「アリザリンレーキ 」「マダーレーキ 」などは、色材として「染料」を使った絵の具です。

通常、染料を絵の具に使う場合は「レーキ化」と呼ばれる工程が行われます。レーキ化とは、簡単に言うと、本来ならば水に溶けるはずの染料を、水に溶けないように変化させることです。

また、「体質顔料」と呼ばれる顔料の粒に、染料をコーティングし、それを「(擬似?)顔料」として使っている絵の具もあります。

それでも、ブリード現象は避けられない場合があるので、[染料系の絵の具]は最後の仕上げの「グレーズ(薄く塗り重ねる技法)」などで使うことが無難かと思います。

油絵を確立したと言われているヤン・ファン・エイク(Jan van Eyck, 1390-1441)の作品をみると、[顔料系の油絵の具]を塗った後に、染料を色材とした[染料系の油絵の具]でグレーズしているのが分かります。

乾燥→グレーズ→乾燥→グレーズ…を繰り返しているので、なんかちょっと盛り上がっているらしいのです。

Jan van Eyck 《Virgin and Child with Canon van der Paele》(1434)
Oil on wood|122×157 cm|Groeninge Museum Collection
出典:WIKIMEDIA COMMONS|La Madone au Chanoine Van der Paele

《ファン・デル・パーレの聖母》で使われている赤は、[顔料系の油絵の具]の「バーミリオン」を使い、その上に[染料系の油絵の具]の「マダーレーキ」 がグレーズされています。

[染料系の絵の具]と呼ばれる絵の具は、鮮やかで発色が良く、粒子が細かいことから着色力もいいのですが、色あせしやすいのが欠点。

しかし、最近の絵の具は合成染料を体質顔料に着色したものを使っているので、耐光性も良くなっていると聞きます。
参考:新美ブログ|油絵具の色について(赤色編)