絵の具の色の名前を見ると
「○○ヒュー」「○○チント」
といった表記を見かけることがあります。
以下の写真は、ホルベインの「バーミリオン」と「バーミリオン・ヒュー」の絵の具です。
[ヒューがついていない絵の具] と[ヒューがついている絵の具]…この違いは一体なんなのでしょうか。
「ヒュー」の意味
「ヒュー」とは、英語で「Hue」、つまり「色調」や「色相」といった意味があります。
・色調 →「色の調子」のこと
・色相 →「色」や「色み」のこと
[ヒューがついている絵の具]とは、その色の「色調」や「色相」に似せて作られた色、ということになります。
[ヒューがついている絵の具]はどんな絵の具なのかというと、高価・有害・毒があるなどして、一般的には扱いづらいとされる色(色調)に「似せて作った色」です。
そのため、[ヒューがついている絵の具]は、[ヒューがついていない絵の具]と比べると、値段が安かったり、無害であるものが多いです。
[ヒューがついていない絵の具]の特徴
・その絵の具の「色」の原料(顔料)が高価
・有害、毒性
[ヒューがついている絵の具]の特徴
・安価
・無害
「ビリジアン」と「ビリジアン・ヒュー」
「ビリジアン」という絵の具は、「クロム鉄鉱」という原料から作られるケースが多いです。いわゆる[本物のビリジアン]は、高価でかつ有毒・有害性があります。
その[本物のビリジアン]に似せて作った色が「ビリジアン・ヒュー」です。ビリジアン・ヒューは、ビリジアンの代替色として、安く手に入れることができます。
「バーミリオン」と「バーミリオン・ヒュー」
「バーミリオン」は「辰砂」と呼ばれる鉱物が原料です。この辰砂には有害とされる「水銀」が含まれています。
水銀という貴金属からできており、かつ有毒・有害性があるため、「バーミリオン・ヒュー」という代替色ができました。
「チント」の意味
「チント」とは、英語の「tint」のことで、「色合い」や「染める」などの意味があります。「ティントリップ」の「ティント」と同じです。「ティントリップ」は「唇を色で染める」化粧品ですよね。
「ヒュー」「チント」と言葉の意味は違いますが、その使われ方の違いはほぼありません。[チントがついた絵の具]も、原料が高価で有毒・有害性のある絵の具の「代替色の絵の具」として存在しています。
なぜ、「チント」と表記されている絵の具があるのかというと、一昔前までは「チント」と表記しているところが多かったのです。最近は「ヒュー」と表記されることが多いのですが、画材メーカーによって、今もバラバラに表記されています。
「Neo」とか「Nova」とか
近年、「ヒュー」や「チント」の他にも、「Neo:ネオ」とか「Nova:ノーバ」と表記されている絵の具が増えてきました。これらの意味は、以下の通りです。
【Neo】
└ 新〜、復活〜、近代の〜
【Nova】
└ 新星
つまり、「新しい」という意味を含んでいます。
言葉の意味は「ヒュー」「チント」とは違いますが、使われ方は同じです。毒性・有害性から製造廃止となった色を再現するために、別の顔料を使って配合した絵の具に付けられています。
参考:holbein|技術情報Q&A
質について
「ヒュー」「チント」「ネオ」「ノーバ」がついた絵の具は、高価で有害・有毒な絵の具の代替色であることを示すと分かりました。しかし、「色」が似ていても原料が全く違うので、以下のような違いがあります。
・混色した時の色合い
・着色力(隠蔽性:下に塗った色を消す力)
これらは基本的に、本物の方(「ヒュー」「チント」「ネオ」「ノーバ」がついていないもの)が属性が高かったりします。
代替色というのは、より無害に改良された絵の具。海外では、環境保護などの点から有害・有毒性のある絵の具の製造を廃止する動きがあります。「絵が描ければ周りのことはどうでもいい」ではなく、より持続可能な芸術活動を続けていく方法を考える必要がありそうですね。
また、技術改良・研究が進んだことにより、優れた顔料が使われているものも多いです。そのため、「ヒュー」「チント」「ネオ」「ノーバ」などの絵の具は、「新しい色」として存在していると言えるのではないでしょうか。