この記事では「臙脂色|えんじいろ」のような鮮やかな赤を作る原料の一つ「コチニール」について解説しています。
臙脂色は「洋紅|ようべに、ようこう」「カーマイン」ともと呼ばれます。
原料はコチニールカイガラムシの雌
コチニールカイガラムシ(別名:エンジムシ)は主に南米に生息。サボテンに生息する小さな虫です。コチニールは生息するサボテンから水分や栄養をとって生きています。
なぜコチニールの雌だけが対象なのかというと、雄は羽があって飛んで逃げてしまうから。雌は羽がないので、サボテンの上で生まれてから、一生同じサボテンに定住し続けます。
色の作り方
出典:howstuffworks|How Carmine, the Red Dye Made From Bugs, Makes It Into Your Food
まず、コチニール虫を収穫(?)します。収穫後、底の浅い木の板に集められたコチニール虫を5〜6分間揺さぶります。こうすることで、コチニール虫を徐々にころしていきます。この作業で熱湯やオーブンを使用するところもあるようです。
その後、2〜3日間は外で天日干しして、乾燥。乾燥させたあと、不純物を取り除いたら、カーマインの原料の完成です。
コチニールの染料を1ポンド(約450g)作るのに、約70,000のコチニール虫が必要と言われています。ペルーだけでも、毎年200トンの染料を生産しているとか…。
以下の動画は、実際に乾燥させたコチニール虫を使って色を作っているところ。
乳鉢で粉砕した粉に、水を少し加えて混ぜると、あっという間に赤く!
以下の動画は、糸に染めるワークショップの様子。
動画後半を見ると、コチニールにライムストーン(石灰岩)をたくさん加えることで、化学反応が起き、赤から紫に変わっています!こうやって色幅を出しているのですね。
現在でも、ペルーなどではコチニール虫を「染料」として染めた絨毯などの布製品が作られており、重要な観光資源になっています。
コチニールの歴史
虫を使った染料というのは、古くから見られる方法で、古すぎてどこが起源か分からないくらいだどか…。少なくとも、紀元前約2000年頃からアステカ、インカ帝国などで栽培され、染色用の染料として使われてきたようです。
1|スペインのアステカ帝国征服
The Conquest of Tenochtitlan
大航海時代の16世紀、スペインはアステカ帝国を征服し、コチニール染料の価値に気付きます。コチニールは銀に次ぐ主要な輸出源に。コチニールの生産のために、先住民の人々が労働力となりました。
Indian collecting cochineal
こぼれ話
当時スペインの王は、コチニールだけでなく、ラテンアメリカの豊富な鉱床で銀鉱が採れることに注目していました。さらに、スペインにはアルマデン鉱山という「辰砂」が採れる「水銀」の鉱床があり、この「水銀」を使って「銀」を精製していました。
また、アルマデン鉱山で採れる「辰砂」は赤の顔料として、なんと古代ローマ時代から使われていた、と言われています。
2|ヨーロッパに渡った赤
ヨーロッパで「赤」といえば、オスマン帝国に由来する「トルコ赤:Turkey red」で、これは植物の根からできていました。しかし、コチニール染料で染めた赤は、従来の赤をしのぐほどの鮮やかさがあり、ヨーロッパの人々は今まで見たことがない赤色に衝撃を受けます。
そして、時はルネサンス期のヨーロッパ。画家たちの間では、「染料」を絵の具の色材として「コチニール」由来の赤が使われました。
Caravaggio《The Incredulity of Saint Thomas》(1601-1602)
劇的な画面構成で知られるバロック様式の絵画。
コチニール由来の赤の原料によって、さらに効果が出ているように思います。
3|コチニールをめぐる事件
コチニールは現在でも、化粧品や食品などの天然染料(着色料)として使用されています。しかし、天然着色料であるとはいえ、虫が原材料だと知ると、ちょっと抵抗感がある人が多いのも事実。某大手企業のストロベリー・フラペチーノが虫で着色されていることで、問題になったことも(2012年)。
鮮やかな色を作るのが難しかった時代。アステカやインカ帝国の技術は、ヨーロッパの人々にとって魔法のように見えたかもしれない。絵の具のチューブに入った状態では分からない色の原料とその歴史。紐解いてみると、色をめぐる歴史が見えてきました。
参考:Wikipedia|Cochineal
参考:BBC|The insect that painted Europe red
参考:howstuffworks|How Carmine, the Red Dye Made From Bugs, Makes It Into Your Food
参考:UNIVERSITY OF MINNESOTA|cochineal
参考:UCSB Geography|Cochineal—A Little Insect Goes a Long Way