大学4年の夏休み、私は北海道一周の一人旅をしていた。
アイヌの聖地と呼ばれる二風谷を訪れた時、美しいアイヌの文様を刺繍する、ある女性とお話ができた。彼女はKさんの母親だ。
アイヌにルーツを持つKさんとお話している時、私が大学で絵を描いているということを話したところ、
「俺のおふくろも、美大出てるんだよ。いや出てはないか、中退したって言ってたな。確か女学生時代にここに来てさ、そこで俺のオヤジに出会って、アイヌの文化にハマっちゃって。大学中退してからここに住んでんの」
「めっちゃロックな生き方してますね…!」
ロックという言葉の意味をよくわからず使っているが、カッコイイ生き方だということを伝えたかったのだ。
「すぐそこで刺繍してるからさ、会ってきなよ」
近くのチセ(家)に入ると、ラジオを聴きながら刺繍をする女性がいた。
さっき、息子さんからお母様のお話を聞きまして…と話しかけると、「うそ〜そんなこと言ったの!あの息子は〜!」と、楽しそうに笑っていた。
大学に通ったのは少しの間だったけれど、その間に芸術の大枠を学んでいたおかげもあって、二風谷に来てからアイヌの刺繍と触れ合ううちに、自分の中の「芸術的価値観」にも磨きがかかっている、と話してくれた。
「持論だけどね(笑)」
って言う姿もかっこよくて、シビレる。彼女が刺繍をしているアイヌの模様というのは、特に「太く白い線」と「藍染の生地」の色のコントラストが特徴的だ。このハッキリしたコントラストによって、模様がキリリと浮かび上がってくる(かっこいい)。
「この空白がカッコいいんだよね!」
と、生き生きと語る彼女の姿が、今も脳裏に焼きついている。
ちょうどそのころ、「仕事」についていろいろと考えることが多かった自分。彼女に、「今から仕事を選ぶなら何がしたいですか?」と聞いたら「CGをやりたいね」と言っていた。かっこよすぎる…。
「でもね、好きなことをして生きるのは大変だよ」
よく聞くシンプルな言葉だが、彼女が口から出るこれは、ものすご重くて深みがあった。
この時の私は、もっと話したいことがあったのだけれど、うまく自分の考えを話すことができなかった。
Kさんと話している時もそうだったのだが、私と彼らの人生の経験値の差、そして、私の話す言葉の一つ一つを理解しようとする姿勢や、言葉を選んで私に語ってくれる姿を目の当たりにすると、適当に喋ったら自分の浅はかな考えなんてすぐに見透かされる…、そんな気がしてならなかった。
無意識かもしれないが、温和に紡がれる言葉の裏で、真剣に人と関わろうとしている姿勢が感じられる。
「また来なよ」
「はい、また来ます」
もし、また皆さんと会えるなら。少しは成長した姿を見せたいし、少しでも語り合えることが増えていたら、と思う。