絵を描くアーティストの多くは、支持体(=絵を支えるモノ)として「木枠(またはパネル)」に「キャンバス」を張ったものを使います。私はパネルも木枠も使いますが、どちらにせよキャンバスを張って使っています。
キャンバスとは
「キャンバス」と言うと、「木枠にキャンバスを張ったそのモノ全体」を指して「キャンバス」だと思っている人も多いですが、厳密には木枠に張ってある厚手の「布」のことです。
キャンバスは主に麻や綿、合成繊維を原料とした繊維を使って、平織り(=経糸と緯糸を交互に交差させながら織る方法)で作られています。厚手で丈夫なのが特徴です。
キャンバスの語源は、ギリシャ語の「Κάνναβις(cannabis):麻」に由来すると言われています。
ギリシャ語:Κάνναβις(cannabis)
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ラテン語:cannapaceus
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古フランス語:canevas
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英語:canvas
また、「キャンバス」という呼び方の他、
・カンヴァス
・カンバス
・帆布
・画布
と、表記されていることもあります。
キャンバスの歴史
麻生地を支持体としたキャンバスが使われるようになったのは、イタリアル・ネッサンス時代(15世紀頃)から。それ以前は、木製パネルに描く「板絵」が主流でした。
キャンバスが普及したのは、次のような利点が考えられます。
・丈夫で耐久性がある
・身近な材料で手に入れやすい
・汎用性があり大きな制作物ができる
・軽くてコンパクトで運びやすい
海運国家として知られるイタリアのヴェネツィアでは、キャンバスとなる丈夫な帆布が船で使われており、材料としては身近。手に入りやすいモノでした。
ちなみに、日本では岡山県倉敷の帆布が有名ね
また、キャンバスはヴェネチアの多湿な環境にも合った材料でした。多湿な環境では、木材は湿気を吸収して反り返りがちです。しかし、キャンバスは木材とは異なり、湿気で歪んだりすることがありません。丈夫なので、壁画のような巨大な絵も描くようになります。
また、キャンバスは木と比べると軽いです。大きな絵も、木枠からキャンバスを外してクルクルと丸めると、簡単に運ぶことができます。
キャンバスに描かれた大きな絵といえば、 ジャック=ルイ・ダヴィッド(Jacques-Louis David, 1748-1825)の《ナポレオン一世の戴冠式と皇妃ジョゼフィーヌの戴冠》。この絵は、タテ約6m×ヨコ約9mもあります。このような大きな絵を描くことができるのも、キャンバスという材料ならではです。
ルーブル美術館の他、ヴェルサイユ宮殿にも
同じ絵があるらしい
キャンバスはヨーロッパ諸国に普及しましたが、ルネサンスの画家たちは、木板の表面のようにツルツルとした画面に描くことを好んでいました。
そのため、17世紀頃までは従来通り木板に描く画家もいました。キャンバスを使う画家もまた、キャンバスのテクスチャを隠すために前準備に時間をかけ、板に描いた時と同じような効果を生み出そうとします。
キャンバスはまた、ヘンプ(Hemp:大麻、麻)やリネン(Linen)から作られていました。見た目はよく似ていますが、リネンの方が高価だったので、当時は麻の方がよく使われていました。
19世紀
19世紀に産業革命で「綿繰り機」が発明され、安価な綿布(コットン)が普及し始めます。
20世紀以前の多くの画家達は、自分たちで木枠やキャンバスを製作していました。コストダウンのためにも、やはり安価な方を選択したのでしょう。麻と比べると、綿はカビが生えやすく丈夫でないにも関わらず、麻よりも綿の需要の方が大きくなりました。
20世紀以降
芸術の世界も、科学技術が進んだことによって、「ポリエステル」や「ポリコットン」などのような合成繊維が、綿の代替品として使われるようになります。
現在は、麻や綿だけでなく、合成繊維などからできた様々な種類のキャンバスがあります。また、既に生成色の下地が塗られたキャンバスが販売されていることが多いです。
しかし、人によっては何も塗られていない麻などを購入し、ルネサンス時代の芸術家たちが画面にこだわったように、下地から準備する人もいます。下地によって作品が影響される人は、下地についての知識も必要ですね。
《まとめ》
- キャンバスが普及する前は、板絵が主流。
- キャンバスは、従来の木の板よりも丈夫・軽い・大きな絵が描ける・持ち運びしやすいという点で使われるようになった。
- 現在は麻や綿だけでなく、合成繊維などからできた様々な種類のキャンバスがある。