「価値を作る」ことについて考えてみた

作品で新しい価値(表現など)を生み出すことも、芸術の機能の一つだと思う。

絵を描いて、日々作品を作り、新しい価値を作り出すことを目標としている君が言うことか!と思うが、価値を作り出すことはもう無理なのではないか、と思う時がある。

諦め・弱音を吐いているように聞こえるかもしれないが。絵画に関しては、ただ純粋に、19世紀から20世紀にかけての芸術のムーヴメントによって、なんだか「出尽くした感」がある。

時々、「木枠を組み立て、キャンバスを貼って、下地を作り、絵具をのせて…」という、自分のその行為が、ただただ絵の具やキャンバスなどの原材料の資源の無駄使いをしているだけではないか?と思えて仕方がなくなる。絵の具やキャンバスなどの原材料に対して、「これは一体どこからきたのだろう?どうやって作られたのだろう?」と、思いを馳せがちになるから思うことなのかもしれないが。

筆についた絵の具を洗えば水が汚染され、油絵を使えば化学反応で乾いていくから、画面からなんらかの有害な気体が発生している…その他にもいろいろ。

学生時代、大学では芸術系の学生が作品制作の過程で出た「ゴミ」が、毎日大量に生み出されているのを見ていた。それを見て、「なぜ、ゴミを出してまでして、私たちは作品を作るのだろうか?」と、疑問が拭えなかった。し、自分も作品を作る中で日々ゴミを出しているから、なるべく目をそらしたかった。

それは、絵を描かなければ、作品を作らなければ、発生しなかったモノだ。

何か作ろうとすると、少なからずというか必ず「無駄」が出る。「何もしない」方が環境にいいのは、確かだ。

ならば、「絵を描くことで価値を提供できる」という考え方が、すごく傲慢なことに見えてきたのだった。

◇◇◇

相変わらず、モノや情報に溢れた世の中だと思う。

未知のウイルスの影響で、好きなブランドが倒産したり撤退したり…という報道を聞くと、そのブランドが積み上げてきた「文化」や「歴史」が失われたように見えて、悲しいし、残念だ。

そう思うと同時に、絵画のように、今まであふれてすぎていたのかもしれない、出し尽くした感があるのかもしれない、とも思った。こっちの業界も、今までの価値の作り出し方・価値の提供の仕方では、ダメなんだろう。

ファッション業界について詳しくは知らないが、アパレル・服飾業界はもう随分と前から厳しい状況だということを、知っている人も多いと思う。

一つのものを長く使う、そういうリサイクル的な何かを求められているような気がした。誰からそう求められているのかは不明で、なんとなくだが。でもそう考え始めないと、今の方法ではやっていけない気がする。多分、随分と前からそれは求められてきたのだろうけど、今回の状況でより顕著に求められているな、と感じた。

トレンドを出すことで新たな価値を生み出すだけではなく、もともとある価値を繰り返し、長く提供するという、一つの価値創造の仕方が、大事になってくるかもしれない。

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昔と比べて溢れるモノや情報。何か自分にとって必要なのか、「選択」する機会も増えた。今の日本に生まれてなかったら、片田舎で外の世界への憧れを抱きながら暮らす、物資・情報弱者だっただろう。

昔と比べて、多くの人が絵を描ける時代になった。今の日本に生まれてなかったら、名家の男子でない限り、きっと私は絵を描かせてもらえなかっただろう。

「誰でも手に入れることができる・誰でもできるようになる」のはいいことだと思う。しかし、「誰でも手に入れることができる・誰でもできる」ことで民度が下がる可能性もある。万人に開かれるのは、「新しい風」を吹き込むと思うし、私が保守的なだけなのかもしれないが…。

ただ、もともとの土壌を踏み荒らしてほしくない。

文化を含めた色んなものは、創造と破壊を繰り返している。しかし、土壌を踏み荒らすことは、先人たちが長い年月をかけて作った環境を、ショベルカーでガガガッて目先の利益だけを求めて、何も考えずに壊すことと似ている。

破壊するなら、悪き習慣だけにしてくれ。創造するなら、元々の土壌に敬意を払ってくれ。という感じである。

「誰でも手に入れることができる・誰でもできる」は権力になる。もともとの土壌を踏み荒らして価値を創造したものは、きっと浅くて薄っぺらで、中身のないものにしかならないと思う。

◇◇◇

まとまりのない3つの考え・疑問・思いを書き出してみた。

1|資源の無駄使いまでして価値を創造する意味は?
2|リサイクル的・元々の価値を繰り返し提供することも大事になるかも
3|もともとの土壌を踏み荒らして価値を創造するのは創造していない

作るのはよした方がいいけど、作り続けないと進まない… そういう矛盾がある。

というか、そもそも論として「価値」って何?というところが不明なんだけど、価値を作り出そうとするなら、健全な手順で健全なモノであってほしい。自分も、目先のことしか考えずに表現したことで、誰かを傷つけたかもしれない。表現者には、そういう責任があることを肝に銘じとく。

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