『ロミオの青い空』煙突掃除夫の子どもたち|子どもが小さな大人だった時代

「煙突掃除夫」とは、その名の通り「煙突を掃除する人」のことだ。


煙突掃除夫の始まり

ロンドン大火(1666)がきっかけ

Great Fire London
Great Fire London(1675)

煙突掃除は、1666年のロンドン大火をきっかけに始まったとされる。火災を未然に防ぐ方法として、可燃性のある「煤」を取り除く必要があると考えられ、これが職業として成立した。

煙突は約23×36cmと狭い。

ゆえに、大人たちは体が小さい子供がこの仕事にぴったりだと考えたのだろう。身よりのない孤児やストリートチルドレンが拾われたり、貧しい家庭から人身売買されたりして、子どもたちはこの仕事に行き着くことがほとんどだった。

出典:中央大学|教養番組「知の回廊」63「19世紀の英文学と少年法」

煤で真っ黒になった顔に痩せ細った少年二人の写真。煙突掃除の過酷さが伝わってくる。

体が成長すると煙突に入りにくくなるため、子供たちの食事はいつも最低限だったそうだ。

煙突掃除夫として雇われた子供たちの仕事は、煙突に入り「煤」をキレイに除去すること。煙突内での作業は危険を極め、子供たちは窒息死や転落死などで命を落とすこともある。怪我をしていなくても、体に悪い煤を吸い続けているため、結果的に気管機能に支障をきたしていたはずだ。

Bub und Meister
Bub und Meister(19世紀後半)

劣悪な環境と「子ども」という概念がまだなかった19世紀初頭。

そのような過酷な時代を生き抜く子どもたちにスポットライトを当てた作品の一つが、『ロミオの青い空』だ。


『ロミオの青い空』

『ロミオの青い空』は、1995年にフジテレビ系列で放送されたテレビアニメ。

1975年に放送された『フランダースの犬』から始まったテレビアニメ「世界名作劇場シリーズ」の第21作品目に当たる。制作は日本アニメーション。

『ロミオの青い空』

出典:dアニメストア

また、「世界名作劇場シリーズ」が2020年で45周年を迎えるのを記念として、「大人向け」をコンセプトにした「世界名作ノスタルジア」という新しいプロジェクトがスタートしたようだ。


『ロミオの青い空』大まかなあらすじ

スイスのソノーニョ村で生まれ育った家族思いのロミオ。
貧しいながらも、暖かい家族と自然豊かな村で慎ましく暮らしていました。

しかし、11歳の時、不慮の事故でケガをした父の医療費のため、自らを煙突掃除夫としてミラノへ売りだすことになります。そこで出会った親友アルフレド、仲間の煙突掃除夫達と「黒い兄弟」の結成…。少年たちが力強く生き抜いていく様が描かれています。


原作はリザ・テツナーの『黒い兄弟』

『ロミオの青い空』の原作は、ドイツの作家リザ・テツナー(Lisa Tetzner, 1894-1963)の『黒い兄弟(Die schwarzen Brüder)』である。

主人公は「ロミオ」という名前ではなく、原作では「ジョルジョ」だったり、原作と異なる部分も見られる。原作では、「少年売買や労働の苛酷さ」を中心にストーリーが展開される。

「少年売買や労働の苛酷さ」は、テレビアニメ『ロミオの青い空』でも描かれているが、煙突掃除夫である少年達の「力強い生きざま」や「友情」にも、描写の重点が置かれているみたいだ。そして「世界名作劇場」にありがちの、「悲劇的」なシーンもある。


認識(=当たり前)の違いと「子ども」の誕生

Kaminfegerbuben
Kaminfegerbuben in Mailand(ミラノの煙突掃除夫)

この時代、「煙突掃除夫」の他に「海軍少年水兵」という仕事があった。「海軍少年水兵」とは、名前の通り戦艦で働く海軍少年兵のこと。火薬包を大砲まで運ぶことが仕事だった。別名「パウダーモンキー」と呼ばれ、なんと対象年齢は6歳以下。

しかし、「海軍少年兵は煙突掃除よりマシ」と当時の人々は本気で考えていたらしく、善意から煙突掃除ではなく、戦艦に子どもを送り込む運動をした人もいたようである。

「煙突掃除夫」に限らず、本当は異常なはずなのに、それが当たり前のように存在している世界では、その異常さに人は気づきにくいのだろうか。

もちろん、『黒い兄弟』のような作品などで、煙突掃除をする子供達の現状を伝えようとした人もいたのは事実だが…。


「時代によっての認識の違い」といえば、大学の授業で「植民地」のことについて先生が語っていたことば思い出す。「植民地主義」「帝国主義」の時代、色んな汚い理由で進めていた背景がある。しかし、当時は「良かれ」と思って進めていたというのも、また事実だったりする。

今の私達からすると、ありえない侵略行為だが、当時の「帝国主義」は、それが未開の人々のためになり、それが近代化につながると本気で考えていた面もある。

西欧諸国だけでなく、日本でも、例えば「北海道開拓」なんかがある。これも同じ「良かれ」と思っての感覚なのだろうか?観光地では「北海道開拓の歴史」なんてカッコよく謳っている案内を見かけるが、アイヌの人々の立場からすると、ただの「侵略」であろう。

話がそれてしまったが、時代の認識(=当たり前)の違い、つまり「大人」と「子供」の線引きがまだなかったということが考えらえる。子供は「小さな大人」だったのだ。


Photo: Metaweb/CC-BY

出典:Ranker|Children In Victorian England Were Sold Into Chimney Sweeping Slavery 

19世紀初頭の世界は「小さな大人」だからできる仕事がある、という考えなのだろう。「子供」の誕生はもう少し後になるようだ。

「認識(=当たり前)」は、時代や国の事情によって大きく異なり、「これはこうあるべきではないだろうか?」と、長い時間をかけて試行錯誤した上に「作られたもの」なのかもしれない。


子どもの煙突掃除夫撤廃までの流れ


Photo: The Daily Mail

出典:Ranker|Children In Victorian England Were Sold Into Chimney Sweeping Slavery 

イギリスでは1788年に、児童労働に対する規制の法案が通過した。しかし、実際は施行されなかった。1840年にも、21歳以下の煙突掃除夫を禁止する法律が作られたが、これも同じ結果に。

1875年、12歳の男の子が煙突掃除で死亡し、親方(上司)に過失致死罪になす。これがきっかけとなったのか、煙突掃除の廃止運動が拡大・活発化した。
参考:Ranker|Children In Victorian England Were Sold Into Chimney Sweeping Slavery 

ドイツでは、ナチスのヒトラーが政権をとったときに、「煙突掃除夫はドイツ人だけにする!」という法律を制定した。反政権のヤツがいないかどうかを調べるため、彼らをスパイ代わりにしていたみたいだ。

こんな感じで、紆余曲折もあったようだ。


煙突掃除夫、現在

出典:地球の歩き方|幸運を運ぶ煙突掃除屋さん

児童労働が撤廃された後も煙突掃除の職業は生き残り、出稼ぎ的なものになった。しかし、煙突掃除夫になるには資格や研修が必要だったり、煤が原因の病気で労災が認められたり、煙突掃除の道具の改善など…。現在は、ちゃんと整備が行き届いているみたいだ。

現在、実際に仕事をしている人を探してみたところ、以下のような記事を見つけた。煙突掃除の職歴20年というエロワンさんの一日に密着した記事である。どんな道具を使って、一日どれくらい仕事をしているのか、繁忙期はいつなのか…。気になる部分が詰め込まれている。


幸せを呼ぶ煙突掃除夫?

ヨーロッパ諸国では、「煙突掃除夫が幸せを運んでくれる」と言われている。なぜ、煙突掃除夫が幸運を運ぶのか…その由来は諸説あるようだ。

【幸せを掴んだ煙突掃除夫】
煙突掃除夫が足を滑らせて屋根から落下した時、たまたまそこで介抱してくれた女性と恋に落ちて結婚

【煙突は天と地を結ぶ】
娘の身売りを考えていた貧しい家庭に、ある日の夜に煙突から金貨が。そのおかげで娘の身売りをせずにすんだ。

【災厄を取り除いてくれる煙突掃除夫】
掃除をしない煙突は煤などが原因で火災に。また、煙突を掃除するのは大変な仕事。煙突掃除夫は、大変な仕事もやってくれて、火災の原因も取り除いてくれて、おかげで冬は暖をとれる料理もできる。

などなど

国や地域によっていろいろな由来があるが、共通点は、

「煙突掃除夫を見かけるとラッキー」
「煙突掃除夫に触るとラッキー」

というジンクスがある点であろう。


「Spazzacamino !」いろいろ

「Spazzacamino」とは『ロミオの青い空』でも出てきたセリフ。

これは、「煙突掃除」という意味である。アニメでは、ロッシ親方が「スパッザカミ〜ノ!」って街中で叫びながら歩き回り、お客さんが「こっちおねが〜い!」って感じで、仕事をもらってきている。

ミモリ
ミモリ

石焼き芋の販売とか、廃品回収車みたいな感じ


1|「Lo Spazzacamino 6 romanze」

「Spazzacamino」にまつわるものとして、オペラ作品がある。

1845年、イタリアで「Lo Spazzacamino 6 romanze:煙突掃除 6つのロマンツェ」というオペラ作品が作曲された。

詩:マッジョーニ (Manfredo Maggioni )
曲:ヴェルディ (Giuseppe Verdi,1813-1901)

なんて言っているか分からないけど、たまに聞こえてくる「Spazzacamino」だけ聞き取れる(笑)

歌詞の内容はこんな感じだ。

「おいらは醜くて汚いし、煙突掃除はいわゆる3K(汚い・キツい・危険)で大変だけど、おいらより幸せなヤツなんているんだろうか?」

当時の子どもたちの過酷な煙突掃除の実態を鑑みると、歌で美化しているだけのように見える…。そんな中でも、煙突掃除に誇りを持って仕事をしていた人もいたのかもしれない、わからないけど。また、「煙突掃除夫は幸運を呼ぶ」というジンクスがあったことも、歌詞の内容に影響しているのかもしれない。


2|Raduno Internazionale dello Spazzacamino

なんと、「Raduno Internazionale dello Spazzacamino:国際煙突掃除集会?(直訳)」が行われているとか。動画では、世界各国の煙突掃除夫たちが集まり、パレードしています。日本も参加しているようですね!(動画41秒)

「Spazzacamino〜!」って言い合っているのが聞こえてくる。
パレード前には、「Lo Spazzacamino」という、民謡みたいな曲を歌っている。


3|Museo dello Spazzacamino

「Museo dello Spazzacamino」という「煙突掃除博物館」なるものがあった。『ロミオの青い空』のロミオの故郷でもあるスイスのソノーニョ村にあるようだ。

\煙突掃除博物館/
Museo dello Spazzacamino – Home page

ミモリ
ミモリ

ここ、いつか行ってみたか〜!
『ロミオの青い空』の聖地巡礼ってやつ!


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