『デュラララ‼︎』は東京、池袋を舞台とした物語で、オカルトやカラーギャングを中心とした世界観のアニメだ。登場人物「セルティ・ストゥルルソン」という女性は「首なしライダー」と呼ばれる、池袋の生きた都市伝説。その正体は「デュラハン」と呼ばれるアイルランドの妖精だ。
しかし、ゲーム「とんがりボウシと魔法の365にち」(以下「とんがりボウシ」)に出てきたデュラハンは、「首なし」のところは同じなんだが、騎士を思わせる風貌です。
という事で、なぜこんなに風貌が違うのか気になったので、デュラハンについて調べてみました。
デュラハンとは
デュラハンは、ケルトの「アンシーリー・コート(Unseelie Court)」と呼ばれる妖精の一種で、アイルランド発祥と言われています。
Unseelie:祝福されざる、神聖でない
Court:妖精
上記の意味から推測できるように、アンシーリー・コートとは、人間たちに害を及ぼすとされる不吉な妖精の総称。どうやら、デュラハンはあまりよくない妖精みたいだ。
デュラハンの役割
デュラハンは死を宣告する、死神のような存在です。
まず、夜な夜な辺りを駆け回り、死者が出る家を発見すると、その家の前に止まって扉をノック。家人が出てくると、(なぜか)たらいいっぱいの血を浴びせて去っていく。たらいいっぱいの血を浴びせかけるのは、「デュラハン」が人に見られるのを極端に嫌っているからだとか(じゃあノックしないで?)。
そのため、もし辺りを駆け回っているデュラハンと道でばったり会おうものなら、持っている鞭で目を潰しにかかるのだとか。
デュラハンの弱点
できればデュラハンに会いたくない…。
でも、もし会ってしまったら、川の向こうに逃げるべし!都合よく川があればの話だが。
なぜ川の向こうに逃げるといいのかというと、デュラハンと首なしの黒馬「コシュタ・バワー」は水の上を渡れないかららしい。また、デュラハン自身が、水に自身の姿が写るのを見る事を嫌っているからだと言われています。何だか、鏡を見るのが好きじゃない私みたい、自己肯定感低いのかな…(そういうことではない)。
その原理に従うなら「鏡」持っていればいいのかな?
あとは、朝日が昇るまでひたすら逃げる。
基本的に、逃げられないし追い払えないらしいですが、金にだけは恐怖心を示すらしいです。そのため、金貨や金のアクセサリーを身につけているとよいかもしれません。
「デュラハン」の見た目
これは、女性とも男性とも言われています。
なるほど、だから『デュラララ‼︎』で「セルティ」が女性でもあり得たのだろうか。
見た目は、首がない・もしくは自分の頭を小脇に抱えており、もう片方の手には手綱を持ち、これまた同じく首なしの黒馬が引く馬車に乗っているそうです。
ちなみに、この首なし黒馬の名前は「コシュタ・バワー(Cóiste-bodhar,「静寂の馬車」)」といいます。『デュラララ‼︎』のセルティが乗っているバイクの名前もこの名前でしたね。
一説によると、デュラハンが抱えている首は口は耳まで裂けており、恐ろしい笑みを浮かべているそう。 そして、頭はカビの生えたチーズの色と似ているらしい。とりあえず腐っていて、頭全体が腐敗物質のリン光で輝いており、デュラハンはそれを提灯として使用します(もしくは、人間の頭蓋骨を提灯代わりにしている)。それを高く掲げることで、遠くまで見渡すことができるのだとか。
馬車には棺が積まれており、虫食いだらけの黒いビロードがかかっている。持ち手や車輪のスポーク は人骨、鞭は人間の背骨を使っているのだとか。
1|なぜ「騎士の姿」が登場したのか
当初は「民間に伝わる不吉な妖精」という側面が強かったのですが、時代が進むと段々「騎士」の側面が前面に出てきました。これは恐らく、世の中に騎士が登場する時代になり、「戦などで首を切られて死んだ」という話が後付けされた可能性がある、という説が濃厚です。
そして、性別も男に統一され、乗っているのも馬車ではなく一頭の馬になったのではないかと言われています。
2|戦う乙女
北欧では、「モリガン」や「ワルキューレ」などのような、いわゆる戦場へ導く「戦乙女」「女妖精」が死者を「天国(ヴァルハラ)」に導くという伝承が多く、それがデュラハンにも影響していると考えられる、という説。
余談ですが、『ヴィンランド・サガ』という漫画は、まさにヴァルハラに行くことを夢見て闘う「ヴァイキング」と呼ばれる戦士たちが生きた11世紀初頭の北欧世界が描かれています。北欧世界を体感したい人にオススメです。
3|ワシントン・アーヴィングの小説『スリーピー・ホロウの伝説』
Ichabod pursued by the Headless Horseman(1849)
「スリーピー・ホロウ(Sleepy Hollow)」とは、アメリカ合衆国ニューヨーク州で語り継がれている伝説の事です。実際、ニューヨーク州には、スリーピー・ホロウという名前の土地が多くあります。
その伝説に、ワシントン・アーヴィングという小説家が一味加えたようです。
アーヴィングが、アイルランドを旅した時デュラハンの話を聞きました。その話に感心したアーヴィングは、小説の中にデュラハンを登場させようと思い立ちます。
彼はアメリカに帰国後、『スケッチブック』という小説作品を発表しました。その作品の中には、スリーピー・ホロウとしてデュラハンが登場しました。
アーヴィングの小説では、そのデュラハンは「アメリカに移住してきたドイツ人の騎士で、その性格は残虐非道」という設定。首を斬られて死んだその怨念からか「他の人間の首も斬ってやる」と夜な夜な頭を抱えて近隣を徘徊…、という設定らしい。
そして、この話を元にティム・バートン監督の作品『スリーピー・ホロウ』(1999)が映画化されます。これを期に、「デュラハン=騎士」という認知が広がったのではないか、という説です。
デュラハンの起源
デュラハンの起源は諸説あります。
1|古ケルトの神クロム・クルアハが元になった説
St. Patrick and Crom Cruaich
クロム・クルアハ(Crom Dubh/Crum Dubh)とは、ゲール語で「黒くて曲がった」を意味する死と太陽を司るアイルランドの神。豊穣神とも。断首によって、生け贄を「クロム・クルアハ」に捧げる儀式が行われていたとされています。
2|パリの聖ディオニュシオスが元になった説
聖デュオニュシオス(Dionysius)は3世紀後半に活躍した聖者。250年頃に殉教したとされています。フランスの守護聖人としても有名です。日本では「聖ドニ」「サン・ドニ」と呼ばれる事が多いようです。
原初キリスト教の伝道に尽力し、パリ司教も務めた人物。しかし、多くの人々を改宗させたために、ドルイド僧たちの怒りを買い、パリ郊外のモンマルトル(Montmartre:古フランス語で「殉教者の丘」)と呼ばれる場所で斬首されました。
「聖ドニ」には様々な逸話があるのですが、どうやらその中の一つに「切り落とされた自分の首を持って歩く」というのがあるらしいです。
話によると、彼は首を斬り落とされた直後、突然体だけ起き上がり、頭を自ら拾い上げ、説教をしながら数キロメートルを歩いたという。彼が説教をやめ、力尽きて倒れた場所は、その後「サン=ドニ(Saint-Denis)」という地名へと変わったのだとか…。
聖人や聖女のアトリビュート(その聖人・聖女を表す道具など)は、殉教の際の拷問道具などが描かれることが多いです。この像をみる限り、聖ドニは「自分の頭」なんでしょうか?
「サン=ドニ」には現在、フランスで最も有名な寺院「サンドニ大聖堂」が建てられ、多くの信仰を集めることとなりました(歴代フランス国王の墓所が設置されているのもここ!)
3|北欧の人頭崇拝が元になった説
北欧には「首無し○○」に関する話がけっこう多く残されている。
その背景には、頭にこそ生命は宿るとする「人頭崇拝」の考え方があるようです。
参考:wikipedia|ケルト人
そして、デュラハンは死をつかさどる存在。人頭崇拝の視点からすると、「生命の象徴である頭がない=死」という意味になるのかもしれません。
今現在、デュラハンと聞くと、やはり「騎士」のイメージが強いです。ゲームでも、ガタイのいい「騎士」の姿で描かれることが多いような気がします。
説がいろいろありすぎて、なんかもうごちゃ混ぜになっちゃっているんですが、小説や映画のような、広く認知されるメディアが生まれたことで、なんとなく統一されたデュラハン像ができた感じがしますね。
参考:Wikipedia|Dullahan