アメリカ|究極の丁寧な暮らしを送る「アーミッシュ」とは

INTEREST

アメリカには「アーミッシュ」と呼ばれる宗教コミュニティがあります。

【アーミッシュの主な居住地】

アメリカ合衆国
 └ オハイオ州
 └ ペンシルベニア州

カナダ
 └ オンタリオ州

アーミッシュについて分かりやすく言うと、「究極の丁寧な暮らし」を送る人々だと言えます。彼らは、アメリカ大陸に移民してきた当時からの生活様式を守り続けています。

なぜ彼らは「宗教団体」と言われてるのか。それは、アーミッシュがとあるキリスト教の宗派から分離した、という歴史があるからです。

献身的なキリスト教徒でもあるアーミッシュは、聖書に書かれていることをそのまま信じている(福音派的・原理主義的な)人々。特に、聖書の中で語られる「質素」「謙虚」「平穏」の教えを大事にしているため、「近代以降の技術・考え・モノは信仰生活に反している」と考えています。


信者数

アーミッシュは、布教活動などを特に行っていないにも関わらず、自然と数が増えています。

「アーミッシュは大家族が多いから」などという理由のほか、一般的なアメリカ人としての生活を送っていた人が、家族みんなでアーミッシュのコミュニティに入ることも、最近は珍しくないそうです。


アーミッシュの暮らし

アーミッシュの暮らしぶりは、ある一定層の人々の心に突き刺さるような、憧れの生活かもしれません。「ほんて21世紀のアメリカ?!」と目を疑います。

アーミッシュの村へ訪れると、電線が見当たらないと言われています。電気は太陽光や風車、水車で蓄電池に充電した電気を使う程度。明かりは電気を使用せず、ガス灯を使います。テレビ、電話、もちろんスマホもありません。

しかし、アーミッシュの村によっては、緊急用として共用の電話や車が用意されているところもあるようです。

また、「近代以降の技術・考え・モノは、信仰形態に反する」と考えられているアーミッシュの教えですが、一部では観光客向けに商品販売などが行われているところもあります。

アフリカのマサイ族などがケータイやスマホなどを使っているように、アーミッシュの村にも現代化(近代化?)の波が押し寄せているようです。しかし、現代技術を全て排除するワケではなく、自分たちの信条に反しないモノは取り入れる、というように寛容的な部分も見られます。


移動手段

アーミッシュの人々は、移動は車ではなく馬車を使います(ウィンカーをつけることが法律上義務付けられている)。アーミッシュが住んでいる地域を訪れると、一般公道を馬車で行き交う光景を見ることができます。

しかし、アーミッシュの馬車によって交通渋滞になったり、馬車と自動車の交通事故もかなり多かったりと、問題もあるようです

出典:THE EVERY THREE WEEKLY|Amish Buggy Taking Its Goddamn Time In Front Of Traffic Jam

出典:LNP|LancasterOnline|Amish buggy smashed in accident|Four hurt in fog at Buck


服装

出典:Ohio’s Amish Country|Gene Wintersole photo

全体的に、シンプルでクラシカルな格好と決まっており、村によってカラーがあるようです。

女性はボンネットを被り、髪を隠す。アクセサリー類は付けない。
男性もシンプルにスラックス、サスペンダー。髭を生やしている人も多い。
子供も、大人と同じようなシンプルな格好。
また、素足を好む人が多く、家などでは素足で過ごすことも多いのだとか。

そして、大事に使われて古くなった服は「アーミッシュキルト」としてキルティングの材料になります。

出典:Ohio’s Amish Country|Randy L. McKee photo


言語

アーミッシュの話す言語は、「ペンシルバニア・ダッチ(Pennsylvania Dutch)」と呼ばれています。スイス・ドイツ諸語やアメリカドイツ語、英語、スラングなどの言葉が、移住から約300年の月日を経て、複雑にミックスして形成された言語です。かなり難解らしい。

また、アーミッシュにとって、英語は[外の世界の人たちとコミュニケーションをとるための言語]という認識。アーミッシュの学校では、英語も同じように学んでいるので、その多くは普通に読み・書き・話すことができます。


教育

出典:HUFFPOST|Insular Amish Schools Find Ways To Serve Special Needs Kids

アーミッシュは、コミュニティの中に独自の学校を持ち、教育期間は8年生(=日本の中学2年生に相当)までです。近くに一般のアメリカ人が居住していることも多いため、公立学校もありますが、通わせることはほとんどないと考えられます。

その理由として、

1|農業中心の社会だから
2|世俗的なモノに触れないようにするため

ということが考えられます。

アーミッシュがアメリカに移住してきた当初は農業中心の社会。「近隣の学校に通い、帰ったら農作業の手伝いをする」というサイクルができあがり、当時は「子供の教育は8年で十分」と考えらえていました。

その後、義務教育期間が9年間に延長。しかし、既存のサイクルを壊したくなかったアーミッシュは、新しい変化を受け入れ難かったようです。明治時代の日本の農村でも、「働き手が減るから」という理由で学校が燃やされることもあったし、状況は似ているような感じがします。

そして、聖書に書いてある言葉をそのまま信じる彼らにとって、歴史や地理、化学は必要ないモノ。また、「世俗的なモノ」に「アーミッシュ」の子どもたちが触れてしまうことを恐れているのも理由の一つです。


アーミッシュの歴史

Menno Simons(1610)
Source:University Library Amsterdam

彼らは「キリスト教アナバプティスト(=幼児洗礼を否定、自分の意思で再洗礼を受ける)」を起源に持ち、「メノナイト(Mennonite, メノー派)」の流れを含んでいます。メノナイトとは、指導者であるオランダ生まれのメノ・シモンズ(Menno Simons, 1496-1561)の名前にちなんで名付けられた教派です。

メノナイトはスイス・チューリッヒで誕生しますが、カトリック教会などの宗教迫害から逃れるため、ドイツ南西部やフランス・アルザス地方へ移住します。そして18世紀初頭には、アメリカへ移住しました。

その後、メノナイトの教徒であったヤコブ・アマン(Jakob Ammann, 1644-1730?)は、さらに保守的な派を作りました。この団体こそが「アーミッシュ」で、ヤコブ・アマンの名前にちなんでそう呼ばれ始めました。

ただ、メノナイトの方が少しユルい(自動車免許を所持できる、家電製品が使用可能、など)くらいで、基本的な信条はだいたい同じです。そのため、ひとくくりに「アーミッシュ」や「メノナイト」として呼ばれることが多いのですが、線引きははっきりとしているようです。


アーミッシュとして育った若者たち


Rebecca, Kate, Sabrina, Abe and Jeremiah visit the Big Apple in the 2012 season of “Breaking Amish”

出典:NEW YORK POST|It’s ‘Return’ to Pa. for ‘Breaking Amish’ spinoff

16歳になったアーミッシュの若者は、「ラムスプリンガ:Rumspringa」という期間を体験します。このラムスプリンガの期間中、若者たちはアーミッシュのコミュニティや掟から完全に解放され、好きなことができます。

アーミッシュはもともと、選択の期間を経て、自分から信仰に目覚めるという「再洗礼」の流れを含んでいると考えると、この儀式を理解しやすいと思います。

この期間中、アーミッシュの若者たちは都会で生活してみたり、お酒やタバコなどの快楽・娯楽に手を出してみたり、[外の世界の本(アーミッシュの掟には、指定された本以外の読書ができない)]などから新しい情報に初めて触れたりします。

そして、ラムスプリンガが終了する18歳の成人になった時に、アーミッシュとして生きるか、世俗で暮らすかを選択することができるのです。

世俗で暮らすことももちろん選択できますが、その場合、ほとんどのケースで家族やアーミッシュのコミュニティと絶縁されてしまうそうです。

ほとんどの青年たちはアーミッシュのコミュニティに戻ってくると言われています。しかし、ニューヨーク・シティで生活するアーミッシュの若者たちのドキュメンタリー「Breaking Amish」では、元のコミュニティに戻ることを拒む若者も多く見られました。


Runaway Amish Girl

アーミッシュだったエマ(Emma Gingerich)は『Runaway Amish Girl』の執筆者です。

厳格なアーミッシュのコミュニティの中で育ったエマ。アーミッシュの教育が終わる14歳になった時、ここから抜け出したいと考えます。彼女曰く、「アーミッシュのライフスタイルは自分に向いていなかった」とのこと。

アーミッシュの暮らしぶりは、老後の生活のようにも見えますし。活動的・刺激的なことをより求める若者であれば、閉鎖的で牧歌的なコミュニティに嫌気がさすこともあるのでしょう。

アーミッシュの中でも情報化が進んでいると聞く今日この頃。この先、どのように生活していくのか少し気になるところでもあります。